長距離マラソンでよく耳にする「ハンガーノック」や「30kmの壁」。レース後半に突如脚が重くなり、頭がボーッとした経験はありませんか?これはエネルギー切れ(低血糖)の症状で、簡単には見逃せない危険サインです。本記事では、マラソンで起こるエネルギー切れの原因や症状を詳しく解説し、2025年現在の最新の予防・対策法を紹介します。
目次
マラソンで起こるエネルギー切れの症状
エネルギー切れとは、体内で使えるエネルギーが枯渇した状態です。マラソンでは、スタートから大量の糖質(グリコーゲン)が消費されます。体に蓄えられた糖質が不足すると、突然エネルギー供給が途絶え、ランナーを襲うのが「エネルギー切れ」です。このセクションでは、マラソン中に現れる典型的なエネルギー切れの症状を見ていきます。
レースではエネルギー瓶切れによる症状はだいたい同じ時期に出ます。多くのランナーが30km前後で体力が尽きる「30kmの壁」を経験するのは、このエネルギー切れが原因です。このタイミングで身体のエネルギー源である糖が底をつくことで、脚が急に重くなり頭が働かなくなります。
初期に現れる症状
エネルギー切れが始まると、まず以下のような初期症状が現れます。
- 走り出しから数十キロで急に脚が重く感じられ、ペースを維持しにくくなる
- 頭がボーッとし、集中力や判断力が低下する
- 急激に空腹感や吐き気を覚えることがある
- 手先や足先にしびれや冷感が生じ、汗をかいているのに体温が下がる
進行すると現れる症状
初期症状を放置して走り続けると、さらに症状は深刻化します。例えば、以下のような症状が現れることがあります。
- 視野が狭くなったり、めまいや立ちくらみが起こる
- 脚の筋力が大幅に落ち、足が動かなくなる
- 思考力がさらに低下し、簡単な指示すら理解しづらくなる
- 寒気や悪寒が強まり、何度も吐き気を催す
重篤化する前のサイン
さらに症状が進行すると、重大な危険サインが現れます。例えば、
- 立ち上がれなくなってその場で倒れそうになる
- 意識が朦朧として反応が鈍くなる
- 極端に顔色が悪くなり、冷や汗が止まらなくなる
- 呼吸が浅く速くなり、過呼吸に近い状態になる
エネルギー切れの原因とメカニズム
エネルギー切れは、主に体内の糖質(グリコーゲン)ストックの枯渇によって引き起こされます。通常、筋肉や肝臓に蓄えられたグリコーゲンがランニングのエネルギー源として使われます。しかし、長時間にわたる全力運動ではこれが急速に消費されてしまいます。
特にマラソンでは序盤から速いペースで走ると体内のグリコーゲンが不足しやすいです。蓄えられた糖質が底を突くと、血糖値が急激に下がり、身体が正常に機能しなくなります。このため、適切な補給が不可欠となるのです。
グリコーゲンの枯渇と血糖低下
開始から90分前後で筋肉内のグリコーゲンは大幅に減少します。肝臓のグリコーゲンも同様に消費され、血糖値を安定させる余裕がなくなります。血糖値がこちら急激に下がると、体は運動を止めようとする保護反応を起こします。
脳へのエネルギー不足反応
脳は糖質を唯一のエネルギー源として利用するため、血糖値の低下に非常に敏感です。低血糖状態になると、脳は身体を動かすことを抑制します。その結果、自分では「思考ができない」「脚に力が入らない」といった状態になります。
脂肪代謝への切り替わり
体は不足した糖質の代わりに脂肪酸を燃料として使おうとしますが、脂肪燃焼は糖質消費ほど迅速ではありません。脂肪への切り替わりが追いつかないと、エネルギー不足はさらに進行します。練習で脂肪燃焼能力を高めていても、マラソンでは速筋も多く使うため、速やかな糖質補給が必要です。
エネルギー切れか脱水か?症状の見分け方
マラソンでは脱水症状とエネルギー切れが双方起こりやすく、症状が似ているため混同しやすいです。しかし、原因や対処法が異なるため正しく見分けることが重要です。ここでは両者の症状の違いと、各々の対処法について解説します。
脱水症状の特徴
脱水は主に発汗による体内水分・塩分不足が原因です。のどの渇きや尿量の減少、皮膚の乾燥、倦怠感が典型的な前兆です。脱水が進むと、めまいや頭痛、筋肉のけいれん(熱けいれん)、立ちくらみ、発熱が現れます。また、血圧が低下していることも多いです。
エネルギー切れ特有の症状
一方エネルギー切れでは、脚の重さや急激な疲労感、強い空腹感が顕著です。冷や汗をかいたり、顔色が青白くなることもあります。焦点が合わない、視界がぼやける、ふらつく、不安感や頭痛などが現れ、思考力や判断力の低下も著しい点が特徴です。
判断ポイントと対処の違い
下表はエネルギー切れと脱水症状の違いをまとめたものです。
| エネルギー切れ(ハンガーノック) | 脱水症状 | |
|---|---|---|
| 主な症状 | 激しい疲労感・脚の重さ・空腹感・集中力低下・冷や汗 | のどの渇き・倦怠感・尿量減少・頭痛・筋けいれん |
| 原因 | 糖質不足による低血糖 | 水分・塩分不足 |
| 対処 | 糖質補給(ジェルやバナナ等)+休憩 | 水分・塩分補給+休憩 |
エネルギー切れを防ぐ栄養と補給のポイント
エネルギー切れを予防するには、練習段階から食事管理と給水計画を徹底する必要があります。特にレース前の食事(カーボローディング)とレース中の定期的な糖質補給が重要です。ここでは効果的な栄養戦略を解説します。
レース前のカーボローディング
レース前の数日間は炭水化物中心の食事に切り替えて、筋肉内のグリコーゲンを蓄える「カーボローディング」を行います。大会前3日間は通常より炭水化物の割合を増やし、前日は脂肪やたんぱく質をやや控えめにします。そして当日の朝食には消化に良いおにぎりやパン、バナナなどを選びましょう。
レース中の補給戦略
レース中は30~45分ごとに糖質を補給するのが理想的です。スポーツドリンク、エネルギージェル、ようかん、バナナや羊羹など、即効性のある補給食がおすすめです。2025年のスポーツ栄養学ガイドラインでは、トレーニング経験者なら1時間に最大60~90gの糖質摂取が推奨されています(複数糖質摂取に対応したジェルなどを活用)。ただし、胃腸への負担にも注意し、自身に合う量を調整してください。
推奨される補給食・サプリメント
以下の補給食は、マラソン中のエネルギー補給に効果的です。
- エネルギージェル:携帯に便利で消化吸収が早い
- スポーツドリンク:水分と糖質・電解質を同時に補える
- バナナ・ようかん:消化が良くするっとエネルギー補給できる
- アミノ酸サプリ・塩タブレット:疲労軽減や塩分補給をサポートする
エネルギー切れが起こったときの対処法
エネルギー切れの兆候を感じたら、無理に走り続けず速やかに補給・休憩することが大切です。このセクションでは、発症時に有効な対処法と注意点を解説します。
即効エネルギー補給方法
発症直後は即効性の高い糖質補給が必要です。ブドウ糖や果糖が主成分のスポーツドリンク、またはエネルギージェルがおすすめです。これらは胃腸への負担が比較的少なく、すばやく血糖値を上げてくれます。
休息と回復の方法
糖質補給後はペースを落として休息をとりましょう。数分でも歩いたりストレッチすることで血流が促進され、補給した糖質が筋肉に行き渡りやすくなります。無理せず体を休ませて回復させることが重要です。
重症時の対応と注意点
意識がもうろうとしたり倒れそうな場合は、無理に走り続けるのは危険です。症状が重いときはレース中断を検討し、場合によっては医療機関の点滴など専門的な対応が必要になります。極端な低血糖は身体に大きな負担を与えるため、安全第一の判断を心がけてください。
まとめ
マラソン中のエネルギー切れは、脚が動かなくなるだけでなく命にかかわる重大なリスクです。ここで解説した症状・原因を理解し、レース前後・レース中に適切な糖質補給を行えば、エネルギー切れは大幅に防げます。最新のスポーツ科学でも示されるように、十分なエネルギー補給と体調管理こそが完走のカギです。この記事を参考に、正しい知識と対策を身につけ、安全に42.195kmを走り切りましょう。
コメント