暑い季節に開催されるマラソンは、熱を生む大量の運動と高温環境が重なり、熱中症のリスクが高くなります。近年は地球温暖化で夏の気温上昇傾向が続いており、万全の対策が欠かせません。本記事では、マラソン中に取り組むべき予防策や初期症状の見分け方、万一熱中症になったときの対処法を詳しく解説します。正しい知識で安全に走り切りましょう。
目次
マラソンで熱中症対策を徹底する理由と基本
マラソンは長時間にわたる有酸素運動で、走行中に大量の熱が体内で発生します。特に気温や湿度が高い環境では、汗だけでは体温上昇を抑えきれず、体温調節機能の限界を超えることがあります。熱中症は体内に熱がこもることで起こる「暑熱障害」の総称で、放置すると判断力低下や失神、重篤化すれば意識障害や多臓器不全に至る恐れがあります。マラソン大会では高温多湿下を長時間走るため、熱中症リスクが一般的なスポーツよりも格段に高まります。
熱中症の基本と定義
熱中症とは高温・高湿の環境下で生じる暑熱障害の総称です。徐々に悪化するもので、初期にはめまいやふらつき、頭痛などの自覚症状が現れますが、症状が進行すると皮膚が乾いて泡を吹くような激しいけいれん(熱けいれん)や、脱水による全身の倦怠感・吐き気(熱疲労)を伴うことがあります。さらに体温が40℃以上まで上昇して意識障害を起こす状態が熱射病です。熱射病は多臓器不全にもつながる非常に危険な状態で、疑われた時点で速やかな冷却と救急搬送が必要です。
マラソンにおけるリスク要因
マラソンで熱中症になりやすいのは、走行時に①運動による発汗で体内水分・電解質が失われる点、②マラソン速度を上げるほど体温がより上昇する点、そして③長時間走ることで体力が消耗し判断力が鈍くなる点にあります。また、マラソン大会では観客の熱気やコースの照り返しなど、普段以上に高い負荷がかかります。さらに、前日の睡眠不足や疲労、二日酔いなど体調不良があると熱中症リスクは急増します。
近年の気候変動・温暖化の影響
地球温暖化に伴い、日本では猛暑日や熱帯夜の日数が増え、昔よりも夏場の気温が高くなる傾向があります。例えば、気象庁の予報では2025年の6~8月平均気温は平年より高いとされ、2018年・2024年のような記録的猛暑が再び起こる可能性が指摘されています。そのため、マラソン大会が夏場や残暑の季節に開催される場合は、過去以上に注意が必要です。気温の急上昇時や湿度の高い環境では熱中症が起こりやすいことを念頭に置きましょう。
熱中症のリスク要因と原因
熱中症は「体温調節機能の破綻」によって起こります。マラソン中は運動強度が高く体温が急上昇する上、汗をかいても高温多湿ならば汗が蒸発せず体温放出が追い付きません。特に●気温が高いとき●湿度が高いとき●直射日光が強いときは体温調節が困難になります。また、速いペースで走るほど熱産生が増加しますし、未経験者や暑さに慣れていない人は熱中症になりやすいです。高齢者や持病(糖尿病、高血圧など)がある人も、循環機能が弱いため熱暴露に弱く注意が必要です。
高温・高湿・直射日光の影響
熱中症の大きな要因は「周囲の環境」です。気温が高いと地面や空気から熱が伝わりやすく、湿度が高いと汗が蒸発しにくいため体温が下がりません。さらに、照り返しの強いアスファルトの上では通常よりも体感温度が高くなることがあります。これらの条件が重なると体温が急激に上がりやすく、少し走るだけでも危険度が増します。
運動強度と体力不足
マラソンでペースアップしすぎることも熱中症の原因になります。速いスピードで走ると運動強度が高まり、筋肉で発生する熱量が増えます。また、訓練不足で体力がついていない場合は、同じ暑さでも低い負荷であっても発汗量や心拍数が上がりやすく、体に余計な負担がかかります。練習量が不足して極端に体力が落ちていると、気づかないうちに強い疲労と脱水が進んでいることもあります。
体調や体力、年齢などの個人差
個人差も大きな要因です。●暑さに慣れていない(暑熱順化ができていない)●睡眠不足や食事の偏りで体力が低下している●急激に痩せている(低体脂肪状態)●持病で脱水傾向がある(糖尿病患者の高血糖や利尿作用など)などに当てはまる人は要注意です。また、高齢者は体温調節機能が弱まりやすく、若者でも体重に比して発汗量が少ない小柄な人は熱をためやすいので、他人より負荷軽減を心掛けましょう。
熱中症の初期症状と予兆—見逃さないために
熱中症は軽度のうちに対処すれば回復しやすいものの、気づかずに走り続けると急激に悪化することがあります。初期症状には「強い倦怠感」「頭痛」「めまい」「吐き気」「集中力の低下」などがあります。特に顕著なのは大量の発汗と手足の冷え。体が汗をかいても追いつかない時は血管が拡張して血流が悪くなるため、顔色が青白くなったり、手足が冷たくなることがあります。
見逃しやすい初期症状
初期の熱中症は他人から見た目では気づきにくい場合があります。本人は「だるい」「足が重い」などと感じても、周囲には異常が分かりにくいからです。意識がはっきりしているうちは「頑張る」という意識が働くため、軽く頭痛や吐き気を覚えても無理して続けてしまう人もいます。しかし、この段階で適切に休ませないと症状が急変する恐れがあるため、少しでも不調を感じたらすぐに走るのをやめることが重要です。
悪化すると現れる危険なサイン
吐き気がひどくなったり、手足がつる「熱けいれん」が出たら危険サインです。さらに、汗が急に出なくなって皮膚が熱く乾いてきたり、意識がもうろうとして返事がおかしくなると熱射病かもしれません。熱射病では体温が40℃以上に達し、脳の制御が効かず昏睡状態になることがあります。吐き気やひどい倦怠感、異常な興奮や強い眠気などは重篤さのサインです。そのような時はすぐに救護を受けるべきです。
自己診断と早期対応
走行中は自分の体調をこまめにチェックしましょう。周りに聞こえない声で「大丈夫か?」と自分に問いかけ、脈拍の乱れや呼吸の速さが気になる場合は一旦立ち止まります。また、ペースが遅くなったり呼吸が乱れるときはすでに体に負担がかかっている証拠です。本格的なマラソン大会では給水所のスタッフに相談したり、警告放送を聞いたら無理に走り続けずに休む勇気を持つことも大切です。
事前準備:暑熱順化と体調管理
熱中症を防ぐには、レース当日にいきなり猛暑で走るのではなく、数週間前から徐々に暑さに慣れておく「暑熱順化」が効果的です。暑い日に短時間ずつ運動時間を伸ばしたり、軽いジョギングを日中に行って体を慣らしましょう。エアコンばかりで過ごさず、意識的に気温の高い時間帯に外出するだけでも暑さへの順応力が高まります。
暑熱順化の方法
暑熱順化の基本は、暑い条件下での練習を徐々に増やすことです。最初は短時間から始め、1週間から2週間かけて走行時間や強度を上げていきます。特に慣れていない場合は「無理をしない」がルールです。例えば、いつも涼しい早朝に走っている人は、試しに日中(9時~10時頃)に15分だけ軽く走ってみて、その体感を確認します。体が慣れてきたら時間を延ばし、同じ時間帯で20分、30分と増やしていきます。
睡眠・食事・体調管理
日頃から規則正しい生活習慣を心掛けることも重要です。十分な睡眠は体力回復と免疫維持に不可欠で、睡眠不足は体温調節能力を低下させます。前日は深酒や夜更かしを避け、バランスの良い食事でエネルギーと塩分を補給しましょう。大会前には体調チェックも忘れずに。少しでも頭痛や胃痛、体のだるさなど通常とは違う不調があれば、無理に走ると熱中症を発症しやすくなります。
大会前夜・当日の過ごし方
大会前夜は消化の良い食事を早めにとり、就寝時は室温を適度に保って深い睡眠をとります。会場に向かう朝も余裕を持って行動し、慌てないようにしましょう。出発前に体重を記録しておくと、レース後の体重減少を確認しやすくなります。また、出走前に軽いストレッチや短いジョギングで体をほぐしておくと、血行が良くなり汗が出やすくなります。スタート直前に水やスポーツドリンクの微量補給をしておくと体温上昇を抑える効果があります。
適切な水分・塩分補給のポイント
マラソン中はこまめに水分補給を行いましょう。大量の汗で体重が2~3%減少すると運動能力や体温調節能力が低下し、熱中症リスクが高まります。日本スポーツ協会でも「体重減少2%以内に抑える」ことを推奨しています。給水は少量ずつ頻繁に摂ることが肝心で、目安は30分に1回程度です。また、水だけでなく塩分補給も不可欠です。汗で失われたミネラルを補わないと電解質異常を起こし、頭痛や筋肉けいれんの原因になります。
スポーツドリンクと水分補給のコツ
給水は冷たすぎない温度の水やスポーツドリンクが適しています。あまり冷たいと胃腸に負担がかかるので、常温か少し冷えた程度が理想です。重いランナーの場合はスポーツドリンク:水=7:3くらいに水で薄めると吸収しやすくなります。給水所ではゆっくりと座って飲むと消化吸収がスムーズです。できれば走りながらコップを飲むより、止まって小休憩しながら飲むほうが安全で効果的です。
塩分・電解質補給の重要性
汗にはナトリウム(塩分)やカリウムといった電解質も含まれます。汗をかくほど大量に水だけで補給を続けていると血中のナトリウム濃度が下がり、筋肉けいれんや水中毒(低ナトリウム血症)を招くおそれがあります。スポーツドリンクにはナトリウムが含まれていますが、走行時間が長い場合や発汗が激しい場合はさらに塩飴や塩タブレットなどで塩分を補うと安心です。汗かきが激しい人はレース前夜に少し多めに塩分を摂っておくと体調が安定しやすくなります。
水だけでは危険!水中毒とは
水中毒とは汗で失われる塩分を補わず水だけを飲みすぎた結果、血液中のナトリウム濃度が低下する現象です。めまい、吐き気、息切れ、手足のむくみなどの症状が現れ、ときには頭痛や意識障害を起こすこともあります。特に長い距離を走る中で安易に水だけを大量に飲んでしまうと水中毒リスクが高まるため注意が必要です。水分補給は必ず塩分入りの飲み物と組み合わせるようにしましょう。
| 飲料の種類 | 特徴 |
|---|---|
| 水 | 塩分・電解質を含まず体液希釈のリスクがある。給水所で短時間に大量飲むのは避ける |
| スポーツドリンク | ナトリウムやミネラルを配合。マラソン中の水分補給に最適で、脱水予防に効果的 |
| 経口補水液(OS-1など) | ナトリウム・カリウムが多く含まれる。既に軽度の脱水状態になったときの補給に適している |
ウェアと装備の工夫:暑さ対策の工夫
服装も熱中症対策の重要なポイントです。通気性と吸湿速乾性に優れた専用ランニングウェアを選ぶと、汗がすばやく蒸発して体温上昇を抑えられます。綿素材ではなくポリエステルやナイロンなどから作られたウェアは乾きが早く、熱がこもりにくい特徴があります。さらに、薄手の長袖やUVカット素材を選べば日焼けも防げて、肌表面からの熱吸収を軽減できます。
通気性・速乾性の高いウェア選び
衣服が体に貼りつかないゆとりのあるサイズを選びましょう。タイトすぎると皮膚からの放熱が妨げられます。透け感のある薄手のトップスは日光を遮りつつ風通しが良いのでおすすめです。下着にも吸汗速乾タイプのランニング用を選べば、胴体や腰回りの涼しさが保てます。靴下やシューズインソールも吸湿性の高いものにすると、足裏の熱こもりを防げます。
帽子やサングラスで日差し対策
直射日光による熱負荷を減らすには、日よけ効果のある帽子やサングラスが有効です。キャップやサンバイザーを被って頭部を日光から守り、首にかけた冷感タオルに水をつけると首筋から冷却効果が得られます。サングラスは紫外線から目を守り、軽度な熱中症が引き起こす目まい感を軽減します。紫外線が強い日は日焼け止めを塗り、肌のダメージも防いでおくと全身の負担が減ります。
冷却グッズの活用方法
最近はウェアやグッズでも冷却剤を利用したアイテムが増えています。ネッククーラーや冷却タオルはレース前に濡らして首に巻くだけで体感温度を下げられます。レース中の給水所で頭や首に水をかけて濡らすと、一時的に体温上昇を抑えることができます。また、スプレーボトルなどに入れた水を直接顔や体に吹きかけるのも即効性があります。過度に冷やしすぎると一時的に震えが来る場合もあるので、あくまでこまめに冷却することを心がけてください。
レース中のペース管理とセルフチェック
当日のレースでは、序盤から飛ばしすぎないことが大切です。最初は平常時のペースよりも「ややゆっくり」目で入り、体調を確認しながら徐々にペースを上げていきます。フルマラソンの終盤で疲労がピークに来たときに無理にペースを維持すると、突然の熱中症になりやすくなります。給水所を逃さず利用し、少なくとも10㎞ごとにぬるま湯やスポーツドリンクを飲んで体調をリセットしましょう。
適切なペース配分で走る
自己ベストを目指すときでも、高温時はタイムを優先せず安全第一で走りましょう。具体的には、通常の5~10秒/キロ遅い設定を心掛けます。心拍数が普段より明らかに上がりやすかったり、息が上がりやすい場合はペースダウンのサインです。また、ランナー同士で「一緒にゆっくり行こう」と声をかけ合うのも有効です。体温が異常に上がる前に早めの休憩や歩きで体力を温存するイメージで走りましょう。
こまめな休憩と給水
給水所では立ち止まってしっかり給水・給食します。水分は一度にたくさん飲むより、少量ずつこまめに摂るほうが吸収されやすくなります。給水の際、頭から水をかけて体表面を冷やすと、放熱が促進されて体温上昇を抑えられます。トイレ休憩やストレッチを兼ねて5分休むだけでも、体をリフレッシュできます。心配になったら大会主催者の救護スペースに立ち寄り、体温計や医療スタッフのアドバイスを受けましょう。
体調の変化にすぐ気づく
走っていて「いつもと違う」と感じたら、すぐに止まって確認を。周囲の応援やカメラに映る表情で自分をチェックするのも一つの方法です。特に、走っている最中に気持ちが悪くなった、頭がボーッとする、手足にしびれを感じるなどの異変があった場合は、すぐにペースを落とすか立ち止まって一服しましょう。我慢して走り続けると一気に症状が悪化することが多いので、安全側に判断する勇気を持つことが重要です。
熱中症になったときの応急処置と対処法
もし熱中症になってしまったら、すぐに暑い場所から涼しい場所へ移動して休みます。首や脇の下を冷やすと効率よく体温を下げられます。水分摂取が可能なら電解質入りのスポーツドリンクや経口補水液を少しずつ飲ませましょう。症状が軽度ならその場で安静にすれば回復しますが、吐き気や意識障害がある場合は迷わず救急車を要請します。救急車が来るまでの間は冷たいタオルで全身を包むか、氷で額や首筋を冷やすなど積極的に冷却してください。
軽度の症状が出たときの対処
熱中症の症状が軽い場合(意識があり、たくさん汗をかいている、吐き気は軽度)なら、陰や風通しのよい場所で休憩します。HEAD 冷却シートや保冷剤で首筋・わき・股関節を冷やすと効果的です。スポーツドリンクを小まめに飲むほか、塩分補給に梅干しや塩飴を摂ると吸収が早まります。足を高くして横になり、安静にして体が反応するのを待ちましょう。多くの場合、涼しい場所で水分を補給すれば40分程度で回復傾向が見え始めます。
重症の場合は救急要請を
吐き気が続く、意識がもうろうとする、呼びかけに反応が薄い、激しいけいれんが起こる、水を飲むのが困難な場合は重度の熱射病の可能性があります。このような深刻な症状では、冷却しつつ速やかに救急隊を呼びましょう。救急車到着までの間、日陰に移動し、濡らしたタオルや氷を身体各部にあててガンガン冷やします。特に首・脇の下・股関節など大きな血管が通る部位は冷却効果が高いので重点的に冷やしましょう。
効果的な冷却法と体温調節
いったん熱中症が疑われたら、扇風機や熱交換式ファンの送風などで皮膚からの熱放散を促します。飲める場合は氷を少し口に含んで溶かすと、体内から冷やせます。水シャワーを浴びる時間があれば最も効果的ですが、汗で濡れたまま外に出ると逆に体温上昇するため、終了後は上に着る服を変えるか拭いておきましょう。解熱剤は熱中症の熱にはほとんど効かないため、冷却と水分補給が最重要です。
まとめ
- マラソン中は大量の汗と熱の産生で体温上昇リスクが高まるので、事前準備と体調管理が不可欠です。
- 暑さに慣れるため暑熱順化を行い、十分な睡眠と栄養でレースに備えましょう。
- 給水はこまめに行い、塩分入りのスポーツドリンクで電解質も補給します。水だけの過剰摂取は危険です。
- 吸汗速乾ウェアや日よけグッズで暑さ対策し、暑い日は無理なペースで走らずに体調を優先してください。
- 初期症状(倦怠感、頭痛、めまいなど)を感じたらすぐ休憩し、悪化した場合は冷却と救急搬送で命を守る行動を。
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